私が1980年にこの仕事につきましてから今日まで、様々な出来事や社会状況の変化を経験してきました。とりわけ、阪神淡路大震災は、私の建築家人生にとりましても、大変大きな出来事でした。あの日以来、建物は、安全で安心なものでなければならないというポリシーを強く胸に刻みながら日々歩んでおります。安全とは何なのか?構造や工法などはもちろんのこと、使用する材料も大切な要因と考えています。地球に有害な影響を与えない、環境に配慮することも同様です。安心とは何なのか?安心とはそこに住まう或いはそこに居る人々の心が豊かで穏やかであることと。

昨今、well-beingという言葉をよく耳にします。持続的な幸せ、心身と社会的な健康を再確認しようという考え方です。私は、建物は、それを使う人が心身ともに健康に過ごすことができ、それが幸せへと繋がっていくと考えています。その考えは、well-beingとも相通じ、そして未だコロナ禍の中、とても大切な思いのように感じています。

また、私がもう一つのテーマとして取り組んでいるのが、既存の建物を最大限に活かし、大切に守っていくということです。私は現在、商業複合ビルのコーディネーターをさせていただいております。建物は完成して終わりではなく、建物を守っていくためにメンテナンスが重要です。最適なメンテナンスのためには、機能、美観、資産面から総合的に判断し、保守をしていく必要があります。具体的には優先順位を決定し、予算、省エネ、ランニングコストを考慮しながら最善の計画、仕様を考え、コーディネートしてゆかなければなりません。私は、専門家としての立場から、大規模な修繕だけではなく、日常的な修繕や更新、また管理業務に関することも含め総合的にコーディネートをしております。建物の価値を保全し寿命を延ばしていくことは、建築家として大変やりがいのある仕事であると感じ取り組んでおります。 そして、建築の社会的側面である景観においても、その土地の風土や歴史に配慮し、これからもなお一層精進してまいりたいと思っております。 どうかよろしくお願い申し上げます。

石川 淳朗